アイドルとは何か~ビジネス視点から定義する~ | 外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス

2014/01/03

アイドルとは何か~ビジネス視点から定義する~



皆様 新年あけましておめでとうございます。Cute Strategyです。
今年もどうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m

さて、以前書かせて頂いた「AKB48は果たして衰退期なのか」がYahoo!のトップニュースで
紹介されたため、1日で28万PVと過去最大のPV数に跳ね上がり、とても嬉しかったです。

これもひとえにいつも見て頂いてる読者の方々や、
こんなブログがあると周りに紹介して頂いてる方々のお陰です。
本当にありがとうございます。

基本的にこのブログを書くモチベーションは、
多くの方々(特にビジネスパーソンや商学部系の学生さん)にアイドルと経営学の面白さを知ってもらいたいという点と、
アイドル業界に関係する方々に今後競争が激化する業界の中で生き残っていくために、このブログが何らかの助けになればという思いです。

前者は多くのメディアに扱って頂き、好意的なコメントも多く頂くことにより徐々に達成を実感し、
後者もアイドル関係者の方々にも浸透してきているようでアイドル運営の方々やアイドルビジネスに関係する企業、メディアの方々からサポート依頼の連絡が来たり、ブログを読んで頂いた感想などもいただき、徐々に自分のアイドルをきちんとビジネス視点で見る必要があるという考えに賛同して頂ける人が増えた実感もあるので本当に嬉しいです。

さて最初からタイトルの話から逸れてしまいましたが、本題に移りましょう。

アイドルとクラウド・ファンディングが相性が良い6つの理由」の話から、
若干このブログのターゲット層を一般寄りにしました。

その中でアイドル・ビジネスの話をする上で避けては通れない、
アイドルとは一体何なのかをビジネス的側面から定義する必要があります。

この定義を元に今後アイドル・ビジネスとはどのようなものであるか、
様々な観点から分析する上で論理の展開上の基点として必要になるからです。



◎これからアイドルの何を定義するのか(商品の構成要素 コア)

まずは経営学で言うマーケティングにおける製品戦略の中で、
ある商品(製品)を構成する3つ要素は以下とされています。
(通常さらに細分化されているが、説明を簡略化するためこのコンセプトを用いる)

1.コア→顧客の本質的なニーズを満たすための、根本となる機能や価値のこと
2.形態→コアに付随する製品特性やスタイル、品質、ブランド、パッケージングのこと
3.付随機能→アフターサービスや保証など、顧客が価値を認める付加的な要素のこと

商品の構成要素

これを自動車という製品に適用すると、
1.コア→運転・運搬性能
2.形態→色やスタイル、燃費、安全性、速度など
3.付随機能→品質保証や保険、アフターサービスなど
となります。

例えばアイドルであれば、
2.形態→顔、身体的スタイル、性格、パフォーマンス、衣装など
3.付随機能→接触イベント(握手会、2ショットチェキ会など)、ライブ、ファンクラブ運営、ファンクラブイベントなどに該当します。
(ライブや接触イベントを商品として考えた場合は、さらにコア、形態、付随機能の構成要素に分解されます)

ではコアは何に該当するのでしょうか。
これが本日のアイドルを定義するメインテーマとなります。


◎アイドルとは何か

それではアイドルの構成要素のコアを定義したいと思います。

先に結論を書くと、ちょっと長いですが、
"ある個人、または個人が所属するグループの人間的成長及び関係性の成長ストーリーをコンテンツとして提供する"

これが私が考えるアイドルの定義(商品構成のコアの定義)であり、
成長ストーリーの提供が最も重要になってきます。

昭和におけるアイドル像は、元々のアイドル(偶像)の定義と同様、
マスメディアに出演し多くの人にとって憧れを持たれる存在でした。

それがおニャン子クラブやモーニング娘。の誕生により、
徐々にアイドルはより身近な存在として考えられ、
AKB48の会いにいけるアイドルのコンセプトの誕生からさらにアイドル像の変化は加速します。

身近なアイドルというコンセプトはファンが増えるほどアイドルの人数も拡大する必要がある物理的制約があるため、大人数アイドルの増加や地方を拠点としたローカルアイドルも約800グループ存在するなど、市場の拡大とともにこのアイドル・コンセプトの拡大にも繋がりました。

そしてその荒削りではあるけれど徐々に素人の女の子がアイドルに変化していく成長ストーリーを追い求めていくような現在の定義に変化してきました。

だからアイドルにおいて歌が下手、ダンスが下手といったことが魅力の低下になるのではなく、
その現状からどう成長していくのかに価値があるという独自の世界になることが多く、
これはWeb業界におけるアジャイル開発に似た概念が存在します。

この定義はアーティストとも区別され、
アーティストは自身の才能を世の中を提供することによって、
人々に対して感動やエンターテイメントを提供しています。
そこに成長というキーワードが使用されることはほとんどなく、
独自の楽曲センスやパフォーマンスを消費者に提供することがメインになります。

例えば、Perfumeは広島のローカルアイドル時代から東京のインディーズ時代、
そしてメジャーデビュー後に、
ニコニコ動画などで楽曲が様々なコンテンツとコラボレーションして
彼女達が有名になっていく成長過程を楽しむファンの文化があった時代までは、
私の定義上でアイドルという位置付けになりますが、
彼女達の楽曲やMV、ライブの提供する世界観が固定され、
そのコアをファンに提供され始めた頃からアーティストに変容してきたと考えられます。
また、アーティストとして提供される世界観が変化した時は、
これを成長と捉えられるのではなく、進化といった言葉が用いられることが多いのです。

さて、話をアイドルの定義に戻しますが、
そのアイドルの定義を中心として、ファンやその他の環境を追加し、
アイドル・ビジネスとは何かを抽象的表現したのが、以下のチャートです。

こちらのチャートを基にアイドルの定義の詳細な説明を行いたいと思います。

◎アイドル・ビジネスとは何か


アイドルのコアは、
1.アイドルの人間的成長ストーリー
2.アイドルとファンとの関係性の成長ストーリー
の2つの成長ストーリーで構成されます。

1.アイドルの人間的成長ストーリーは、主に2つに分解されます。
それは、アイドル自身の夢というゴールに向かって成長していく姿と
他のアイドルや業界関係者によって人間関係を構築し成長していく姿です。

前者は、例えば本人の夢がアーティストであるなら、
ダンスや歌などのライブパフォーマンスの向上や、ライブ上での魅せ方、
グループであれば会場規模の拡大がそれに当たります。

後者は、グループ内メンバーや他のアイドルとの軋轢や和解、
もしくは友情の構築などが該当します。

後者は別に特殊なイベントだけが重要ではなく、
メンバーのAちゃんとBちゃんが一緒にお泊りをして、
色々なことを喋ったとブログに書くだけで、
ファン達はその会話やどのような二人の生活を送ったかを想像して、
ファンの応援対象であるAちゃんだけではなく、Bちゃんに対しても好意を感じ、
よりグループに対して忠誠度が上がるといった効果もあります。

そして、
2.アイドルとファンとの関係性の成長ストーリーに関しては、
握手会やチェキ会など接触現場と呼ばれるイベントを主として形成されます。

これは、アイドルCちゃんによって、
自分の顔を覚えてもらえた、名前を覚えてもらえたなど認知という現象や、
握手会に何回も周ることによって徐々に彼女達の人間性や悩みに関するところに触れられた、
逆に向こうから興味を持ってもらえて質問されたなど、
アイドルとファンの関係性が徐々に良くなっていくところにストーリーが形成され、
更には、そのような接触現場での関係性の成長を基点として、
ライブなどのイベントでレス(歌の振り付けに乗じて特定の人に合図を送ったりすること)
を貰えた場合などは、数百、数千のファンから自分が選ばれたという気持ちになり、
徐々に一方的に関係性の成長ストーリーが紡ぎだされることになります。

これらの成長ストーリーへ参加・関与するために、
ライブやCD、DVDなどのコンテンツを購入することになります。
これが抽象的な表現でのアイドル・ビジネスであると私は定義します。

次にアイドルファンはこのようなアイドル自身の成長と、
アイドルとファンとの関係性の成長ストーリーを他者と共有したいという欲求が生まれ、
ファンのコミュニティーが形成されます。
(それ以外にもアイドル・イベントはファン側の待ち時間が長かったり、
運営側から十分な情報が提供されないため、
コミュニケーションを多く取る必要がありコミュニティの形成が促進されます。)

そのファン・コミュニティで他者間は主に2つの関係性が成立しており、
共に応援するアイドルをもっと有名にしたい。もっと自分の夢に近づいて欲しいから、
多くの人に応援するアイドルの良さを知ってもらいたいという気持ちのもとで、
複数買ったCDを渡したり、
余ったライブ・チケットを他の知り合いに無料や格安で譲ったりする協同関係と、

どちらが自分達の好きなアイドルに対して愛情を注ぎ、
逆にアイドルからどれだけ好かれているか(ともすれば何枚CDを買ったか、
どれだけレスをもらえたか)という敵対関係の、
2つの関係のバランスを取りながら、ファン・コミュニティーは構築されています。

そして、このチャートの説明の最後になりますが、
アイドルファンは応援対象に対して興味サイクルを持っており、
何らかの形で飽きが訪れることが多いですが、
異なる応援対象となるアイドル(グループ)を発見し、そちらを選択するか、
または、現在の応援対象のアイドル(グループ)の良さを再発見し、維持するかは、
新たな2つの成長ストーリーを提供し続けるか、できないかによって左右されるのです。


◎アイドルのコアという成長ストーリーはどこに関係するか

実はこの2つの成長ストーリーは、
アイドルがファンから認知をもらう時から維持まであらゆるフェーズに関与してきます。
認知→維持と後続フェーズに移行するに当たり、1つ目の人間的成長ストーリーから徐々に2つ目の関係性の成長ストーリーに重きが置かれる関係にはなりますが、維持するためにも人間的成長ストーリーは重要な役割を占めます。

先に触りだけ話しましたが、特にアイドルにおいてはコミュニティー・マーケティングがマーケティング上重要な役割を占めており、このコミュニティーの形成のコアになるのは2つの成長ストーリーを如何に提供し続け、ファン側でストーリーを創出し拡散してもらえるかがブレイクするかどうかのKSF(Key Success Factor)になります。

AKB48やももクロなど今ではマスメディアでの露出が目立ちますが、
AKB48はブレイク以前はもとより、現在も固定劇場のCS放映などによりネットメディア中心でこの成長ストーリーは創作されていますし、ももクロもブレイク以前はこの成長ストーリーを語るブログや動画は数多く存在し、簡単に見つけることが可能です。
そして、この成長ストーリーのコンテンツを新規ファンは見つけることにより共感し、さらにその成長ストーリーの当事者となるべく消費を続けるキッカケになるのです。

このアイドル業界におけるコミュニティー・マーケティングの重要性と戦略構築の話については、
いつかお話しできる時間が来ればしたいと思います。

その他にも様々なサービス展開においてこの成長ストーリーは重要で、
例えば以前紹介したクラウド・ファンディングの記事で話した理由のうち、
②アイドルヲタクにとって望まれた直接資金で成長ストーリーに参加できるサービス
⑤未熟でも新しいことに価値のあるアイドル
は1.アイドルの人間的成長ストーリーに、

③誰もが経験できないアイドルサービスへの体験を望むファン
は2.アイドルとファンとの関係性の成長ストーリーに深く関わってきます。


◎成長ストーリーを創作・拡散させる上での注意点

アイドル運営側が最も気を付けなければならないのは、
この成長ストーリーの創作を運営側がリードするのではなく、
ファン側が自主的に創作し、拡散することをマネージしなければなりません。

野村総研のオタク市場に関する研究では、
オタク層に共通する行動・心理特性を抽出したところ、
「共感欲求」「収集欲求」「顕示欲求」「自律欲求」「創作欲求」「帰属欲求」の因子に
分解されるという研究結果が出されました。
(参考)マニア消費者市場を新たに推計、04年は主要12分野で延べ172万人

その中において、「創作欲求」、「共感欲求」、「自立欲求」のワードから
"他者によって作られたものではなく、自身の手で創作したものを多くの人に知ってもらいたい"
といったオタク像が得られます。

確かに、ボーカロイドや2ch等から生まれたキャラなど企業などが介入することによって失敗した事例は数多く存在し、コミュニティーで生まれた創作物が最も重要視されます。

アイドルにおいては、
資金力はあるけれどファン数が十分量存在しないアイドル・グループなどに散見されますが、
メディア出演や広告等をうち、運営側で作られた成長ストーリーを提供しても、
ファン側にとってはプロパガンダとして受け取られてしまい、
逆にファンが離れていく原因になってしまうのです。

このようにアイドル運営側は、
・成長ストーリーを創作、拡散するのに十分なコミュニティーを形成するための媒体となる
・ファン側に成長ストーリーのコアとなる題材を提供し、ファン側で創作してもらう
・創作された成長ストーリーを素早く感知し、アイドル側の演出にフィードバックし増幅させる
・成長ストーリーの拡散をサポートする
といった成長ストーリーに関するマネジメントが重要になるのです。


◎2つの成長ストーリーとファン層の嗜好性の違い

次に、2つの成長ストーリーがファン層の形成にどのように関係するかを述べます。
アイドルの人気がどのフェーズに存在するかによって、こちらの関係性は異なってきますが、
ブレイクしたアイドルは数少ないため、
デビュー後数年経ってブレイク以前にいるアイドルについて説明します。

下図のように基本的には、アイドルの人間的成長ストーリーの度合いが強ければ、青色のファン層の割合が増え、アイドルとファンとの関係性の成長ストーリーの度合いが強ければ、緑色のファン層の割合が増えるといった関係です。

成長ストーリーの度合いとファン層の関係

1.アイドルの人間的成長ストーリーを好むのは20才後半~30代以降の社会人のファン層と遠距離でアイドルを応援するファン層が好みます。後者は物理的距離の制限によって自明ですが、
前者はアイドルが頑張ってその努力が報われている姿や、
運営側に与えられた試練を楽しそうに乗り越えていく明るい姿などを好みます。

また、人間的成長ストーリーを創作する層としては、文字や映像による表現に長けている高学歴や高い教養を持った人間で、これらの層を獲得すればコミュニティー・マーケティングのコアとなる成長ストーリーの創作することができ、また、お金の自由度が高い層であることが多いことから、一定の利益率を確保するメリットが生まれますが、逆に多すぎるとファンの流動性が少ない固定化されたファン・コミュニティになってしまいます。

2.アイドルとファンとの関係性の成長ストーリーを好むのは高校生~大学生の層が主であり、彼らは同世代のアイドルから応援対象との関係性を深めることを好みます。こちらの層はお金の自由度は低く、フリーライブ等に参加しがちですが、コミュニティーの構築や情報の拡散能力が高いため、彼らの属するコミュニティーに対して効果的にリーチする可能性が高くなりますが、逆に多すぎると青の層が近寄らず利益率の低下をもたらします。

 この成長ストーリーの度合いを調整することによって
アイドル・グループのファン層をある程度コントロールし、バランスを取ることが可能となります。
(ある程度と書いたのはその他の要因によってこのファン構成が変化するためです。)


◎アイドルの定義を再定義する必要性の高まり

現在アイドルは1,000グループ以上存在すると言われ、
各アイドルは先ほどの商品構成の形態の差異化にフォーカスしているように思います。

ビール業界において、アサヒスーパードライが生まれる以前、競合するビールは商品構成のパッケージや付随機能のおまけを拡充することに労力が費やされました。
その中でアサヒ飲料はビールという商品のコアを再定義し、
キレと鮮度を重視したスーパードライが生まれ、
そのコアを消費者に提供するためにサプライチェーンを大幅に刷新するなど、
コアを再定義することによって大ヒットとなりました。

若干、最近のアイドルの成長ストーリーも似通って、
商品構成における形態や付随機能の差別化だけではなく、
再度アイドルのコアは何かと各運営側が再定義することによって、
新しい次のアイドル像を創造して頂けたら嬉しいです。


◎成長ストーリーにはどのようなパターンが存在するか

最後ですが、成長ストーリーにはどのようなパターンがあるか、
現在私が気づいたストーリー構築を殴り書き程度ですがリストアップさせて終わりにします。
長い文章でしたが読まれた方々ありがとうございます!

◎人間的成長ストーリー
 -グループ知名度の拡大
  ・イベント会場の規模拡大
  ・イベント開催の地域数拡大
  ・大規模人口の都市での開催(ロコドルの場合)
  ・小規模人口の都市での開催(中央型アイドルの場合)
  ・マスメディアへの出演
 など

 -内面的成長
  ・メンバーの卒業・脱退
  ・メンバーやアイドル同士の喧嘩や和解
  ・メンバー間の友情の構築
 ・リーダーとしての意識の変化
 ・ファンとの一体感の創出
 ・グループ内での役割の変化
  ・運営が提供するハードルへの対応
  ・バラエティーやインタビューへの対応
 ・夢の具体化
 ・過去に起きたことへの振り返り
  ・接触イベントに対する対応の改善
 ・自我の芽生え(苦手なことができなくても、これが私なんだという考え もしくはその逆)
 ・降格と昇進
 など

 -身体的成長
 ・物理的身体の成長
 ・パフォーマンス(歌、ダンス)の成長

 -その他
 ・既存アイドル・イメージの破壊

◎関係性の成長ストーリー
 ・接触応対態度の変化
 ・認知(アイドルが自分の名前や個人情報を覚えること)
 ・興味を持たれる
 ・レス
 ・他のファンが経験したことのない唯一の経験
 など





2 件のコメント:

  1. ファンサイト 娘。楽園の ハロプロを論じるスレッド’14に
    こちらを紹介する文を書きましたので 報告させていただきます。

    楽しませていただきつつ 勉強させていただき感謝しています。

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  2. >松永さん
    毎度ご丁寧にありがとうございます!

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