関心が二極化し複雑化するAKB48選抜総選挙 | 外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス

2014/06/21

関心が二極化し複雑化するAKB48選抜総選挙



みなさん こんにちは。CuteStrategyです。

6月7日に2014年のアイドル業界の大イベントの一つであるAKB48の37thシングル選抜総選挙が終わりました。

皆さんの目には今回の選抜総選挙はどのように写ったでしょうか。


・昨年1位の指原莉乃を抑えて悲願の1位を獲得した正統派アイドルの渡辺麻友
・AKB48以外の支店グループ(SKE48,NMB48,HKT48)の躍進
・総選挙ランキングにおける若返り

など見る側の関心度や知識によって見る観点は大きく異なってくると思います。

当記事では、前回の選抜総選挙と比較して、
今回の選抜総選挙ではどのような傾向があったか概要を抑えていきたいと思います。



◎歴代選抜総選挙のTOP30得票総数から分かるトレンド

まずは過去の総選挙の得票数の推移を、TOP30位の合計で見ましょう。
(2009年の第1回総選挙において得票数が公開されている順位はTOP30のため)



第一回総選挙時には5.4万票だった得票数が昨年の第五回総選挙では、
約30倍の166万票と急激に成長しました。

それに対して、今年の第六回総選挙では初めて約8%の値を落としていますが、選抜総選挙の投票券が付属する新曲ラブラドール・レトリバーは、初日売上で歴代最高記録を1%程度上回っていることから、総選挙全体では前年比でプラスになっているはずです。

その差はなぜ生じたのかは、総選挙の立候補者が約250人→300人と20%も増加しているため、TOP30から票が分散した結果であると考えられます。

これらの結果は以前、
ブログで書いたAKB48グループの現状分析でも書いたように、
国内のAKB48グループの成長は一段落という分析と一致しています。

AKB48は果たして衰退期なのか


◎前回選抜総選挙と比較して順位ごとの得票数はどのように変わったか

さて、この得票数の順位による上位64名の内訳を2013年第4回選抜総選挙と比較した場合、ある特徴的なグラフを描くことが出来ます。



グラフを見ると分かるように

2014年第5回選抜総選挙における1~3位は前回を5%程度上回っていますが、
4位~19位までは15%減と大きく票数の減らしており、
20位~64位までは前回と比べ6%程度上昇していることがわかります。





つまり、得票数は二極化しており、
上位と下位の得票数は増加し、中間順位の得票数が減少しているのです。

得票数は総選挙に対する熱狂度や関心度と同じであると考えることができるため、
ファンの関心は上位と下位に向けられ、中間位には薄くなっていることがわかります。


◎AKB48グループの組織構造とマーケティング戦略

さて、次にAKB48グループの組織構造が、一般層やファンにどのような影響を及ぼしているか、マーケティングの観点で分析したいと思います。
AKB48の組織構成はピラミッド型になっており、オーディションで選ばれたメンバーは研究生という形で採用されます。そこで才能を見出された場合は5つあるチームのどれかに所属し、さらにそのチーム内の活動で人気を得た場合、選抜メンバーとしてマスメディアやMVに出演することができます。

通常、マスメディア等に出演する場合は数人~20人程度の幅で流動的なメンバー構成で出演する形を取っています。その出演するメンバーはその出演する番組の内容と適合させる形で、人気、容姿の良さ、話の上手さやダンスの上手さなど様々な才能によってフィルタリングされ選ばれることになります。(例えばトーク番組では面白さや話の上手さによって選ばれる)

AKB48のファンから見た場合はAKB48の組織構造はボトムアップで競争させるスキームのように見えますが、ファン以外の人から見た場合は、これとは異なった一面が見えることになります。

それは不特定多数の人間が目にするマスメディアなどに出演する選抜メンバーは、ファンや運営によってフィルタリングされた外見や性格など人を惹きつける才能を持った選ばれたメンバー達であるため、一般層が見た場合にも興味を引きやすいことになるのです。

そしてメンバーに興味をもった一般層は、メンバーに関する情報やコンテンツを得たいがために、徐々に組織のピラミッド構造を下に辿っていくことになります。

この時、ピラミッド構造の下部でコンテンツを消費するためには、無料で放送されるマスメディアではなく、有料動画や握手会などのイベントに行くしかないため、AKB48を好きになるファンは徐々に消費金額を増加させ、同時に利益率の高い消費に移行させる仕組みが構築されているのです。


◎今回で明確になった"二極化・複雑化する選抜総選挙"

先に述べたようにこのようなAKB48の組織構造と、
今回の選抜総選挙の結果がどのような関係性があるのでしょうか。

基本的にAKB48ヲタクと呼ばれるコア・ファンは、応援する推しメンに上位に上がってもらいたいために、1人で複数枚の投票を行うことが多いことは有名です。

しかし上位に上がるにつれて自分の推しメンの順位を上げるために購入しなければならない投票数は多くなるため、コア・ファンで構成する少ない人数では支えることができなくなり、ライト・ファンまでスケールを広げる必要が出てきます。つまり上位になればなるほど、複数枚購入するコア・ファンより、1,2枚程度の投票しか行わないが人数で勝るライト・ファンや一般層の影響が大きくなるわけです。

(当然コア・ファン→ライト・ファン→一般層の順でピラミッド型の人数比になります。)

金額的な面で見ると初期の頃の総選挙とは異なり、近年の総選挙は総投票数が260万票以上であるため、1位になるためには15万票程度必要なことから、それだけで2億円以上の購入資金が必要となります。そのため、一人あたりで寄与できる割合は年々少なり、その傾向は回を重ねるごとに強くなっていきます。

そこで先に述べたとおり、メディアで頻繁に出演し、ライト・ファンを多く獲得する選抜メンバーに票が集中することになります。

(一部のメディアでは中国からの投票によって渡辺麻友の順位に大きく貢献したと書かれていますが、あれも中国のネット上で複数のライト・ファンが共同して投票した結果であって、少人数の富裕層のコア・ファンによって投票されたわけではありません。)


以上のことから今回の総選挙について次のことがわかります。

1.ライト・ファンや一般層の総選挙の興味はTOP3位争いに集中している

2.コア・ファンの興味は20位以下の下位メンバーに投票を集中させ競争が激化している

3.ライト・ファンと一般層の興味とコア・ファンの興味が上位と下位に向けられ二極化したため、
 4位~19位までの中間位の興味が薄れてきている

なぜ3のような現象が生じているのかを考えると

-ライト・ファンや一般層からの視点→
選挙におけるトップ争いはわかりやすいストーリーであるが、
中間位~下位では何が起きているのか、誰がいるのかわからない


-コア・ファンから視点→
自分の応援する推しメンの順位を1つ上げることにお金を費やすよりも、
1万枚(1.5千万円程度)~2万枚(3千万円程度)程度で十分な
自分が寄与できる割合の多い下位のメンバーの順位を上げることに貢献したい。

といった視点の変化が起きたことが理由であり、
選抜総選挙という一つのイベントの中でこの2つ視点が交差する複雑なイベントに変化してきていると考えられます。

特にライト・ファンや一般層からの視点は重要で、AKB48が一般層も巻き込んで大きな人気を獲得したのは、選抜総選挙のイベントによる人気の可視化のわかり易さが世間に受け入れられたことは明白です。

しかし、そのわかり易さが複雑化してきている今回の総選挙の結果は、
今後徐々にAKB48への興味を失われるといった危険性を内包しているわけです。

前回の総選挙と比較することによって関心の二極化が明確になった今年の選抜総選挙でしたが、ライト・ファンや一般層の興味を失わないためには、今後の総選挙におけるアイドルの競争や成長ストーリーをわかりやすい形で提示し直す必要があります。

AKB48を運営する側もその点については把握しているようで、個人以上にSKE48,NMB48やHKT48などの支店グループ同士の議席数を表示させることでグループ間競争を明確にし、ストーリー化する工夫が垣間見えており、次なる一手をどのように打つのか一人のアイドルヲタクとして楽しみにしています。


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注) 当記事は2014年6月13日にBusiness Journal掲載記事
「AKB総選挙、一般層とコアファンで関心二極化? 得票分析からみえる、AKBの課題」
を原稿のまま掲載しています。
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