AKB48は果たして衰退期なのか | 外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス

2013/12/01

AKB48は果たして衰退期なのか



最近AKB48についての世論でよく聞く言葉がある。
「AKB48ブームは終わって衰退期に入った」
「AKB48は古い、これからももクロだ」
「AKB48はスキャンダルでしか興味を惹きつけることができない」という意見だ。

果たしてAKB48は本当に衰退期に入っているのだろうか。
今回はこれをテーマとして述べたいと思う。

先に断っておくと、私はアイドル・グループ全般が好きであり、
48グループのイベントには行かないが、特に偏って好き嫌いがあるわけではなく、
そのため特に肩入れも穿った見方もしていないつもりである。


◎製品ライフサイクルの概要

一般的に商品の売上推移をプロットすると、
製品ライフサイクルとして有名なS型の波形を描く。
(参考:製品ライフサイクル from Wikipedia)

製品ライフサイクル
縦軸は(A)販売数と(B)利益 横軸は時間
1.導入期 2.成長期 3.成熟期 4.衰退期

そのライフサイクルの各ステージを導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つに分け、
各ステージに適したアクションを取るのが製品ライフサイクル・マネジメントである。

このS型の波形以外に様々なパターンの波形が存在するが、
ここでは話を単純化するため省略する。


◎AKB48の興味度推移は現在どの状況にあるか

この製品ライフサイクルの理論を前提を基にAKB48のGoogle検索数から算出された興味度の推移を見ると以下のようになる。



このグラフを基に簡単にAKB48の歴史と紐付けていく。
2005年12月に小さな専用劇場で生まれたAKB48は2009年の第1回選抜総選挙で世間から若干注目を集め、
それを契機に2010年初頭より急激に興味度が伸び始める。

そして前田敦子が大島優子から再び1位の座を奪い返したドラマで盛り上がりを見せた2011年6月の第3回選抜総選挙において、AKB48単体のピークを迎え徐々に興味度を落としていくのである。

現在のアイドルシーンの先頭に立ったAKB48の躍進をみてこの2011年の少し前から他の芸能事務所が参入し始め、
多くのアイドル・グループが生まれることでアイドル市場における競争は激化し、アイドル戦国時代と呼ばれることとなる。
そして他のアイドル・グループによる代替商品が増えることによりAKB48は成熟期に突入し、
ついには現在に入り、成長期にブレイクしはじめた2010年5月時点を割り込み始めている。

このグラフを見るとAKB48は衰退期に入ったと言えるだろう。

しかし、もう一つのグラフを見て頂きたい。


こちらのグラフだけを見ると、まだ成長の余地がある成長期か、成熟期に差し掛かった段階にも見える。
先程のグラフと一体何が違うのだろうか。

この検索数の推移はAKB48の組織体制や育成方法など組織システムのテンプレートを名古屋(SKE48)やジャカルタ(JKT48)、さらには公認ライバル(乃木坂46)という位置付けで展開している日本5、海外3、計8グループの興味度を総計したグラフである。


下のグラフは、青色がAKB48単体、黄色が日本国内の48グループの総和、
赤色が国内+海外48グループの総和を興味度で比較した。



このようにAKB48単体で見ると衰退期に入っているが、
48グループ全体ではまだ成長期か成熟期~衰退期の手前の段階であることが分かる。


◎AKB48単体の興味度推移とその意味

もう少しAKB48単体について見ていこう。

先程、見て頂いた興味度の推移(実際には検索数を標準化し、ピークを100とした推移)は、
興味度の減少がすぐさま世間がどれだけ興味を失って、
消費を行わなくなっていったかを表す指標として利用するには注意しなければならない。
Google Trendで興味度推移を見る上での注意点としては、以下の点が挙げられるからだ。

1.検索数により、スキャンダル等悪いニュース時にも上昇する
(但し、悪いイメージでの検索数はファッド的に急激に上昇し、
一気に収束するので通常時は悪いイメージでの検索を考慮しなくてもよい)

2.インターネットによる興味であるので年齢層、特に高齢者は考慮する必要がある
(高齢者による興味推移として適用するには困難)

3.興味に対する検索対象がインターネット全体からSNS等検索数に関与しないメディアに移行する

特にアイドルなど一部のファンが熱狂的に支えるエンターテイメント商品においては、
3の注意点が最も重要である。

その理由としては、
初期の段階で興味をもった消費者は検索を通して情報を収集するが、
消費を行い徐々にファン化していくと、ファンで構成されるコミュニティーに属し始めるからである。

そうした場合、情報のアップデートはTwitter、FacebookやGoogle+などのSNSを利用してコミュニティーを
中心に活発に収集・発信していくためであり、これはGoogle Trendの興味度には反映されなくなる。
つまり興味度の減少はどちらかと言うと新規ファンの獲得の鈍化という意味合いが強くなるのである。
(Googleはこれについては理解しており、SNSであるGoogle+を積極的に展開しようとしている)

このような注意点はあるものの、
Google Trendの検索数とCD売上枚数には高い相関性が認められていて、
AKB48では相関係数0.86、他のアイドルでは0.78と高い相関係数であることが分かっている。

そしてAKB48単体のCDの初動売上数をプロットすると維持されていることが下のグラフから分かる。


新規ファンが減少していくにも関わらず、
CD売上が維持されているのはどういった意味合いがあるのだろうか。

これは製品ライフサイクルの衰退期のアクションとして、
新規顧客の獲得から、既存顧客の消費単価を上げることに集中していることから説明が付く。

AKB48の運営側は徐々にフェーズを新規ファン獲得から既存ファンの消費額の増加に軸足を移しているのは、
TVやマスメディア展開よりも、「恋するフォーチュンクッキー」のファン動画アップ現象や
ドラフトの放映がひかりTVやNOTTVでの放映などから、既存ファンにターゲットを絞っていることからも分かる。

それではAKB48に向けられていた興味はどこに行ったのだろうか。
話をその他の48グループに戻そう。


◎日本の48グループの興味度推移とその意味

次に、AKB48と日本で展開されているその他の48グループの検索数を見る。



青色はAKB48単体の検索数、赤色はAKB48にSKE48、NMB48、HKT48、乃木坂46を追加した検索数推移である。
赤色のグラフを見れば分かる通り、若干10月に落ち込みがあるものの日本の48グループの検索数はほぼ維持していることが分かる。

これはAKB48単体を応援していた人は、一部は48グループ以外の他のアイドル・グループを応援したり、
アイドルのファンを辞めたりして居なくなっているが、
それはSKE48など地方48グループの活動により、現地の人々のファンを増やすことで相殺し、
AKB48から地方48グループに興味を移行させているだけの人が多いと推測できる。
(これは下記のSKE48ようにGoogle Trendの地域別検索ボリュームで愛知が最も高いことから分かる)

特に乃木坂46の検索数の成長は大きく、AKB48に次ぐ人気のSKE48を超えつつある。


そしてAKB48以外のCD売上を見るとその他のグループは単調増加の曲線を描いており、
日本の48グループのCD売上は増加しているのである。


しかし、アイドルグループは、人件費、衣装代、イベント設営代、交通費など変動費が高いため、
AKB48単体より日本の48グループで考えると売上は増加しているが、利益率は減少していることが推測される。


◎48グループ興味度の成長に最も寄与しているのはどこなのか

最後に2つ目に見せたグラフの詳細に視点を移していこう。
先ほどのグラフでは、48グループはまだ伸び代がある推移を見せていた。

あの興味度推移の成長に最も寄与している原因は何なのか?
それはJKT48である。

先程、乃木坂46の比較対象としてSKE48をここでも比較対象として使用すると、
昨年の6月時点で2番手のSKE48を抜き、現在では7倍もの興味度を誇っているのである。
そして現在はAKB48とほぼ同等まで成長している。



JKT48が拠点を構えるジャカルタはインドネシア共和国の首都である。
インドネシアは日本の2倍である約2億4千万人の人口であり、
驚くべきことはアイドルのファン層である30歳未満のが人口全体の50%を占める。
これは日本の30歳未満の3.5倍の人口である。

経済に関しては、この10年で名目GDPはUSドルベースで3.7倍に成長している東南アジアの中でも最も有望な市場の1つである。

AKB運営側はこのように、
経済成長著しくアイドルのコアターゲットとなる若年層の人口が多いインドネシアの首都ジャカルタにJKT48
経済成長は鈍化したが巨大な人口を持つ中国の上海にSNH48、
そして日本文化に親しみを持ち、友好的な台湾の首都台北にTPE48
と日本文化が輸出しやすく、成長が期待されるアジア市場の有望な都市を中心に布石を打っている。

つまり48グループの成長の基盤は日本ではなく世界にシフトしていっているのである。
これは日本のみの現象を見続けていると、AKB48というシステム全体を見誤ることになる。

確かに一般人のする雑談や世間話、ゴシップ記事などで語るのであればそれは良いかもしれないが、
アイドルをビジネス的視点で見るのであればAKB48単体のみをみることは木を見て森を見ずの
近視眼的な見方になるのである。

実際、AKB48やSKE48の運営している企業AKSには、
一部上場企業に経営コンサルティングを行うようなコンサルがサポートとして入っているし、
外資金融やベンチャー企業の経営企画にいるような人間も人材として登用している。

やはり彼らの見方はビジネス視点では的確で、
AKB48単体が2011年の選抜総選挙をピークに人気が衰え始めたと感知したと同時に
SKEやNMBなどの地方48グループをテコ入れし、48グループとしてコンテンツを提供できるような体制を整えた。

それに付け加え、
AKB48やその他の日本48グループが固定劇場という固定資産を抱えていたために、
苦労していた日本の投資回収も行え黒字転換し始めた2012年に、
ジャカルタ、上海と台北という成長市場に投資をしたのも、
節税対策とともに為替としては未曾有の円高時期で 現在考えると35%も割安の投資だったのである。

このように48グループはビジネス視点で考えると、適切な時期に適切なアクションを起こしているのである。

しかし48グループの運営には今後の課題も数多く残されており、
日本の48グループのテコ入れにはメンバードラフトなどの新しいイベントを実施しているものの、
やはり選抜総選挙や大規模握手会を超えるイノベーションを起こしていないし、
このままであれば、本来の固定劇場中心のイベント実施に留まるために、
体制人数の削減など必要になってくる可能性もあり、
現時点ではこれが現実的なシナリオになりつつある。

最後となるが、この投稿の結論としては、
・AKB48単体では新規ファンの獲得に関して衰退期に突入し、既存顧客の消費単価を上げている
・AKB48単体を除く日本の48グループは検索数では停滞期に突入しているが、
新規ファンを主にAKB48単体の既存ファンと活動拠点の地域を中心に獲得している
・日本の48グループの売上は増加しているが、
コスト上昇幅のほうが多いことにより利益率は減少している
・48グループ成長の基盤は日本から海外にシフトしている


◎参考文献
・AKB48はこれからが本当の正念場①
2年前の2011年にAKB48単体が停滞期に突入したことを予測

・アイドルの検索数比較
各アイドルグループの興味度比較

・℃-uteのCD売上とネット上の人気度から分かること②
アイドルの興味度推移とCD売上の関係性について

9 件のコメント:

  1. Googleのグラフがモバイルでは見られません

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  2. 学芸会は、年に一度で十分でしょう。

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  3. いまさら、衰退期なのか?って・・・。
    すでに衰退期でしょ!テレビでて1年で
    みんな飽きるでしょw

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  4. コスト上昇幅の方が大きいという理由がよく分かりません
    SDN48は解散し、派生ユニットはほぼ活動休止状態
    HKT48以外の国内グループの人数は頭打ち状態です
    握手会やコンサートの会場も既に最大クラスを使っている中で、
    もうコストはさほど増えないのではないでしょうか

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  5. メルタンとハルッピとサクラタンにサッシーがいればいい!

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  6. >匿名2013年12月12日 13:53さん

    この表現はAKB48単体と比較してその他のグループが増設された時点の話ですね。
    AKB48単体のメンバー一人あたりの売上金額を他のグループが超えることが出来なければ、
    自ずと利益率は下がっていきますから。

    あなたが仰るとおり、増設うんぬんの話がなければコストはさほど増えていないと思います。
    確かにわかりづらい表現でしたね。失礼

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  7. >既存顧客の消費単価を上げている
    これが一番の問題でしょうね
    元々AKBのCD売上はファンに大量に買わせる手法であって
    その売上を持続させる為にCD出す度に握手会を増やして消費単価は更に高くなってるので
    ファンの負担はどんどんキツくなっており財布も限界に近づいてると思います。
    これはAKBだけじゃなく他の48グループもいずれそうなってきます。
    新規顧客獲得が難しいとなると後は既存顧客をいかに繋ぎとめるか勝負ですが、
    今までの消費単価を上げていくやり方だと
    やはり財布の限界と共にグループはそう長く持たないんじゃないでしょうか

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    1. ほとんどのファンはType-Aを1枚しか買わないような人ですが

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    2. 売上枚数を見るとTypeAもTypeBもTypeCも数字は大差ないので
      ほとんどのファンがTypeAを1枚しか買わないというのはちょっと違うような

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